河川でよく見られる「アブラハヤ」と「タカハヤ」ですが、両者の違いは少々分かり難くなっています。そこで今日は違いについて詳しく紹介しようと思います。
まずはそれぞれの概要から。
アブラハヤ Rhynchocypris lagowskii steindachneri
アブラハヤは、コイ科ウグイ亜科アブラハヤ属に分類される淡水魚で、全長15cm前後まで成長します。河川の上~中流域を中心に生息します。
特徴としては、体側中央の黒い縦帯が挙げられます。眼の周辺から尾鰭の基部付近にかけて一本通っています。ただし、写真をご覧になっても分かると思いますが、縦帯が濃くはっきり見られる個体もいれば薄い個体もいて、一概には言えません。
縦帯より背側は薄茶色、腹側は白っぽい体色をしています。
タカハヤ Rhynchocypris oxycephala jouyi
タカハヤは、アブラハヤと同じくコイ科ウグイ亜科アブラハヤ属に分類される淡水魚で、全長は大きいもので15cm程度まで成長し、河川の上~中流域に生息します。
タカハヤも体側に黒い縦帯が通っていますが、淡く、はっきりしない場合がよくあります。鱗が粗いほか、黒色の小斑点が散在しているように見えることが多いです。
両種の比較
分布
アブラハヤの自然分布域
本州東部。 太平洋・瀬戸内海側は岡山県旭川以東、日本海側は福井県北川以東とされていますが、京都府・兵庫県の由良川でも分布が確認されており(東山,2015)、自然分布かどうか定かではありません。
タカハヤの自然分布域
本州西部(中部以西)・四国・九州・対馬・五島列島。太平洋側は静岡県伊豆半島以西、日本海側は新潟・富山県境の境川以西とされていますが、神奈川県(2006)は県西部の河川集団を在来として扱っています。
(藤田, 2015; 板井, 2001; 松宮ほか, 2001)
アブラハヤとタカハヤの分布域は中部・近畿地方などでは重複しており、それらの地域では同河川内で共存していることがあります。
この場合、一般にタカハヤが上流側に、アブラハヤはタカハヤより下流側に分布すると言われています。これについては、アブラが在来・タカが外来である多摩川水系においても同様の傾向が見られます。
ただし、アブラとタカが上・下流側ですみ分けているとはいえ、厳密に分布域の境界が存在するわけではなく、同所で両種が混生している水域も多く見られます。
両種の重複分布域以外のエリアではアブラかタカかが分かるように思ってしまいますが、どちらかが移入されている可能性も考慮する必要があります。
たとえば、東北地方や関東地方は元々アブラハヤしか分布していませんでしたが、複数の河川にタカハヤが移入・定着しているため、アブラハヤではない可能性を秘めています。これは西日本において逆のことが言えます。
※主な移入分布の情報
◇アブラハヤ
北海道厚田川(小島・疋田,1979)・厚沢部川(田城ほか,2010)。兵庫県円山川・矢田川の個体は移入分布と考えられている(田中ほか,2017)。
◇タカハヤ
山形県(環境省,2010)、東京都多摩川(Nishida et al., 2015)、神奈川県大岡川(樋口・渡辺,2005)。
なお、北海道にはアブラハヤやタカハヤと同属のヤチウグイRhynchocypris percnura sachalinensis という種が分布しています。
*アブラハヤやタカハヤは地域変異や個体変異がみられるため、必ずしも全国すべての集団で同じとは限りません。その点ご了承を。
体側の模様
大きな違いとしては、前述の通り体側の見た目が挙げられます。かなり変異に富んでいるようですが、写真からも分かる通りそれなりに違います。
基本的に、
アブラハヤは背側が明るく縁取られた黒い縦帯が目立ち、
タカハヤは黒い小斑点が散在し、アブラハヤと似た縦帯が薄く見られることもある
といった感じです。
ただし、この模様については個体の置かれた環境によって変化に富むもので、たとえば捕ったばかりの個体がしばらく経つと全く違う色、模様になっていることもよくありますので、注意したうえで見なければなりません。
捕ってすぐの状態や暗所に置かれた状態のアブラハヤは,体側の縦帯が目立たずに黒い斑点が散在していることがあり、それを見てタカハヤと間違える例があるようです。逆に、小斑点よりも縦帯が目立つタカハヤというのも出現します。
ですから,典型的な模様が出ているからと言ってそれだけを見て断定してはいけません。ほかの各部位の特徴と模様が本当に一致しているのか、確認が必要です。
実際のところ、そもそも全体的に模様がはっきりと確認できない個体も少なくありません。つまり、見た目でテキトーに判断すると間違えやすいということです。模様だけでの判断は危険です。模様には頼らずに、他の部位も確認したうえでどちらの種か判別しないといけないわけです。
体色
体色については特に個体差、地域差が強く現れると思われますが、アブラハヤの方がタカハヤよりも腹部の白い部分が広い傾向にあります。
また、ひれ(後述)と同様に、タカハヤの方が体が橙色がかっている傾向があります。
体側の模様や色は周りの環境によって特に変わりやすい点なので留意。
鱗
鱗はタカハヤの方がアブラハヤに比べて粗めです。タカハヤの方が一枚一枚がはっきりと見えますので、ぱっと見の印象でも見分けやすいポイントだと思います。
日本産魚類検索第三版では
「側線上方横列鱗数は20以上」ならアブラハヤ(、ヤマナカハヤ)で、
「側線上方横列鱗数は18以下」ならタカハヤ とされています。
しかしながら、これを生時に確認するのは容易ではありません。
側線上方横列鱗数は背鰭の前縁基部から側線までの間の1列の鱗数のことを指しますが、個体が小さいと特に数えるのが難しいでしょう。
また、上記の枚数と一致しない個体も確認されていますので (Nishida et al. 2015 など)、100%確実な識別ポイントとは言い切れません。
体形
全体的にアブラハヤの方がスマート・スリムな印象を受けます。つまり、タカハヤの方が丸っこい体形をしており,体に厚みがあります。
頭部にもいくつか違いが見られます。アブラハヤの方が眼が大きいため、顔の印象がかなり異なります。この違いに慣れると、顔を見るだけでだいたいアブラなのかタカなのか分かるようになります。下の図は体サイズがほぼ同一の2種を並べた写真です。
なお、両種いずれも成熟した♀は繁殖期に頭部(吻端)が伸びて尖りますので,顔つきが変わります。注意が必要です。
尾柄(びへい)にも違いが見られます。アブラハヤの方が尾柄が細長い傾向にあります。
日本産魚類検索第三版によると、アブラハヤは尾柄高が頭長の40%以上48%以下、タカハヤは50%以上とされています。
尾柄高とは臀鰭基底後端から尾鰭の付け根までの部分(=尾柄)の中で背側と腹側が一番近い(細い)ところの太さ、頭長は吻端から鰓蓋後端までの長さのことです。
なお、この値には該当しない個体が極めて高頻度で確認されますので、この魚類検索の値はまったく参考になりません。この2形質の数値だけでは判断できません。
ご注意ください。
ひれ
尾鰭は、アブラハヤの方が切れ込みが深く、タカハヤの方が切れ込みが浅い傾向にあります。ただしあくまで傾向ですので、あまりはっきりとした違いではありません。典型的な個体以外は似ています。切れ込みがそれなりに深いタカハヤはその逆の事例も少なくありませんので、参考程度に。
鰭の色が濃い場合、体色と同様にタカハヤの方が鮮やかな橙色である傾向があります。アブラハヤよりも赤みが強いというか。アブラが茶・褐色ならタカは赤茶・橙色というような違い。
この違いは色がはっきりと現れている個体では顕著に異なりますが、色が薄いと分かりにくい点です。
最後に
結局のところ、私がアブラハヤとタカハヤの区別をする際は尾柄のあたり、体側の鱗や色、体色、顔の雰囲気を総合的に見て判断しています。これが私以外に通用するかは分かりませんが・・・
曖昧なことしか書けていませんが、つまりそういう微妙な違いってことです。ここで挙げたどれか一点の特徴を見ただけでは判別しにくいし判別率も低いですが、比較対象箇所を増やして総合判断することによって、両種はほぼ確実に識別可能です。
アブラハヤ、タカハヤの写真をそれぞれいくつも貼っておきましたが、これは個体差や見え方によって受ける印象が様々であることを示すためでもあります。
渓流に棲む個体と湧水の小川に棲む個体など、生息環境が違うとそれで体形が変わって見た目の印象も大きく異なりますので、見慣れないと難しいです。
幼魚では同定がさらに難しくなります。元々共存する河川では基本的に交雑はほぼ生じませんが、交雑の可能性もないとは言い切れないことに注意が必要です。特に、片方の種が移入されたようなイレギュラーな場所、不安定な環境では、より交雑の可能性が高まります。実際に、タカハヤが移入されていた横浜市内の河川では交雑が疑われる個体が確認されています(樋口・渡辺,2005)。
自分の経験からある程度考察した後に魚類検索を見てみたら同じようなことが書いてあったので、意外といい線いってるじゃんって思ったりなんかもしました。