琵琶湖で新種の微生物続々と発見 産経新聞

琵琶湖で新種の微生物が続々と発見 独自の生物進化ルートに熱い視線


 ゲンゴロウブナビワマスなど「ここにしかいない」とされる固有種が数多く生息する琵琶湖。魚類だけでなく貝類や水草、昆虫などさまざまな生き物に固有種がみられる。そんな独特の生態系を持つ湖を舞台に、世界を驚かせる調査が行われた。体長が1ミリにも満たない微小生物の新種が、平成18~24年度の7年間で50種類も発見されたのだ。このプロジェクトには世界各国から第一線の専門家が集結した。肉眼で捉えられない世界でも豊かな「生物多様性」が明らかになり、琵琶湖の環境に熱い視線が注がれている。

 ■注目集めた企画展

 草津市の県立琵琶湖博物館で「かわいいモンスター ミクロの世界の新発見」と題した企画展が、昨年12月から今年3月まで開かれた。会場では、琵琶湖とその周辺から見つかった、繊毛虫(せんもうちゅう)やカイミジンコ、イタチムシなど微小生物の新種が紹介された。

 「微小生物を対象に、県立琵琶湖博物館が初めて取り組んだ大規模な生息調査の結果を報告したんです。50種類もの新種が発見されたことが、注目を集めました」

 調査に携わった楠岡泰学芸員(微生物生態学)が説明する。同館主催の研究として平成18年度から24年度までの7年間にわたり、琵琶湖やその周辺エリアに生息している微小生物を徹底的に調査したのだ。

 ■11カ国の研究者集結

 地球規模で環境が刻々と変化する中、現時点で琵琶湖にどれだけの生物がすんでいるのか記録を残しておこうとの趣旨で、プロジェクトは始動した。

 「ただ、国内には微小生物の専門家は少なかったため、世界各国の研究機関に協力を呼びかけたんです。こうして、調査は国際的な取り組みになりました」と楠岡さん。同館の呼びかけに応じた英米豪など11カ国の研究者計53人が、このプロジェクトに賛同して琵琶湖に集結したのだった。

 調査範囲は、琵琶湖本体はもちろん湖に注ぐ河川やその支流、水路、付近の水田に及んだ。時には、古井戸や水たまりにまでリサーチの網を張りめぐらせた。

 その結果、貝殻に似た2枚の殻に包まれた「カイミジンコ」の新種は湖本体から次々と発見され、縦に長い体で水中を滑るように動く「イタチムシ」の新種は湖周辺の田んぼから見つかった。

 「新種発見」が学会などで報告され、他の地域で生息していないことが確認されれば、発見された場所の「固有種」として認められる。その認定にはしばらく年月がかかるが、50種類の新種の中には、琵琶湖の固有種である可能性が高いものも含まれているという。

 ■「古代湖」の一つ

 湖の「寿命」は通常、数千~数万年とされる。しかし、中には10万年以上存続している湖もあり、その環境は周囲から隔離された空間だけに独自の生物進化を遂げ、多くの固有種をはぐくむ舞台となる。

 こうした湖は「古代湖」と呼ばれ、ロシアのバイカル湖やペルーのティティカカ湖など世界で10余りが確認されている。琵琶湖もその一つで400万年前に誕生したとされる。それゆえ、研究対象としても長い歴史を持つ。

 「江戸時代に長崎を訪れたドイツ人医師のシーボルトは、動植物の標本採集に熱心で、琵琶湖にも立ち寄ったことがあるんです」

 同館の金尾滋史学芸員(魚類繁殖学)が話す。シーボルトが持ち帰ったニゴロブナなどは「日本動物誌」という書籍で新種登録された。

 大正時代には、東洋初の湖沼研究施設として京都帝大医科大付属臨湖実験所(現京都大生態学研究センター)が大津市内に創設された。以来、琵琶湖にすむ生物に関する調査・研究が進められてきた。

 こうした歴史を持つ琵琶湖だが、微小生物の生態分野に関する研究がほとんど手つかずだったため、今回のプロジェクトに至った。

 「微小生物は化石として残りにくいので、新しい種が生まれて消えていく変遷を把握しづらい。その意味で、現時点でこれだけ生息している、という記録をまとめたことは有意義だ」

 調査を指揮した米国人研究者、マーク・グライガー上席総括学芸員甲殻類分類学)はプロジェクトの成果をこう強調する。必要なのは今回の記録を基礎資料とし、今後データを積み重ねていくことだという。

 「そうすれば、琵琶湖にすむ微小生物の生息状況の変化をキャッチでき、さらには進化の過程にも迫っていける」(小川勝也

産経新聞 7月13日(土)21時37分配信